「水が硬い」「水が軟らかい」液体であるはずの水に、「硬い・軟らかい」の違いがあることは、不思議に思えます。
この「硬い・軟らかい」の違いは、水に含まれる成分で決まります。
「米・水・麹」からなる日本酒ですが、比率を見ると、実に8割が水。
そのため、仕込みに使われる水は、「硬度」が非常に重要となってきます。
酒の命とも言える水の「硬度」について、詳しく見てみましょう。
水の「硬度」が示すのは
水の「硬度」は、1リットルあたりに含まれる、カルシウムとマグネシウムの量を数値にしたもの。
ドイツ式やアメリカ式といった計算法があります。
日本では、戦前まではドイツ硬度、戦後からはアメリカ硬度が主。
国税庁所定分析法は、ドイツ式で、酒造用水の硬度を分類しているようです。
世界保健機関での基準は、アメリカ硬度。
「0~120未満」の水を「軟水」、「120以上」を「硬水」と定めています。
そのため、日本酒の醸造に使用される水は、国際的な基準でいえば軟水に分類されます。
硬度は日本酒に影響する
日本酒の原料の8割は水。
製造の過程では、最終的に生産される酒の量に対して、20倍以上の水が使用されています。
多くの水を必要とする酒造りでは、水の硬度が酒の味に大きく影響してきます。
食品の製造以上に、厳しい水質基準が求められる醸造用水。
その硬度の違いは、どのようなメリットをもたらすのでしょうか。
硬水のメリット
「硬水」は、硬度が高いほど、豊富なミネラルを含みます。
現在でこそ、技術の進歩で防げますが、昔の酒造りには「腐造」という問題がありました。
酵母が発酵を促すまえに、雑菌が繁殖し腐ってしまっていたのです。
酒どころとして知られる灘の水は、硬度が高いことでも有名。
酵母の栄養となるミネラルが多いため、腐造が起こりにくいというメリットがありました。
また、酒質を劣化させる鉄分が少ないため、良質の酒を醸すことができました。
全国に名を馳せる酒どころとなった背景には、安定した酒造りを支える、硬水の存在があったのです。
軟水のメリット
しかし、現在の酒造りは、「硬水」一択ではありません。
品質管理技術の向上にともなって、「軟水」を用いながらも、安定した酒造りが実現しています。
軟水を用いた日本酒は、酵母の働きが抑えられる分、じっくりと発酵していきます。
その結果、なめらか芳醇な酒質になるという特徴を備えています。
豊かな味わいの吟醸酒は、軟水があってこそ生まれくるのだと言われています。
逆に、硬度の高い硬水を用いた酒は、シッカリとした辛口に仕上がります。
使用する水の違いから、対極の魅力を持つ一本が醸されるのは、興味深いことです。
銘醸地の水は
国税庁による分類では、「0~3」が「軟水」。
「3~6未満」が「中程度の軟水」、「6~8未満」が「軽度の硬水」とされています。
硬水の銘醸地
硬水の銘醸地といえば兵庫県の灘地区。
ここを中心に、関西の蔵元は、硬水を使用するところが多いと言われています。
雑菌の繁殖による腐造の心配が少なく、辛口で芯のある味わいの酒が、多く醸されます。
灘の仕込み水といえば、宮水が欠かせません。
硬度8~9と、醸造地のなかでは、トップクラスを誇ります。
ここで仕込まれる酒は、「灘の男酒」と評されるほど、辛口かつ味わい深いものばかりです。
また、灘と対をなす銘醸地といえば、京都伏見。
硬度6~7と、灘よりも、やや低めの硬度の水を使用しています。
厳密に言えば、中硬水となる伏見の水ですが、灘と比較されることが多いことから軟水と評されることもあります。
味わいも、優雅で柔らかく、「伏見の女酒」とも呼ばれます。
僅かな硬度の違いが、酒の印象を大きく変えています。
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軟水の銘醸地
軟水の銘醸地といえば、雪解け水が豊富な新潟です。
新潟の水は、硬度3。
驚くほどの低さです。
軟水を使用した醸造法は、緩やかに進む発酵をコントロールするために、温度管理を始めとした高い技術が求められます。
細心の注意をはらった末に生まれるのが、なめらかでスッキリとした味わいの酒。
「新潟淡麗」という表現が生まれるほど、軽く美味しく仕上がります。
軟水なくしては、「新潟淡麗」が世に出ることはなかったでしょう。
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軟水と硬水による日本酒の味わいの違い まとめ
ほんの少しの差で、酒の味をガラリと変えてしまう、水の硬度。名水あるところに銘酒ありと言われますが、酒造りでは、品質を左右するほどの力を秘めています。
山に囲まれた日本は、全国各地に名水の産地がちらばっています。
それだけに、その土地独特の味合いを持つ酒が醸されています。
水を知って酒を知る、などと語ると偉そうでしょうか。