殿、利息でござる!パンフレット

穀田屋十三郎という江戸中期の蔵元をご存知でしょうか。
磯田道史著の『無私の日本人(文春文庫)』で紹介された3人の人物のうちのひとりとして紹介されました。

また、松竹映画 『殿、利息でござる!』で俳優・阿部サダヲが穀田屋十三郎を演じていることで一気に脚光を浴びた篤志家でもあります。
さて、今回はこの穀田屋十三郎なる人物に焦点を当ててみたいと思います。

 

穀田屋十三郎

無私の日本人 (文春文庫)陸奥国仙台藩領の宿場町「吉岡宿」で酒蔵を営む商人。
穀田屋は屋号で、本名は高平十三郎といいます。
元は浅野屋(遠藤家)の長男にあたるが、幼いころに穀田屋(高平家)へ養子にだされ、穀田屋を継ぐことになります。

さて、吉岡宿は仙台藩の直轄領ではなかった為、助成金が給付されず、厳しい年貢の取り立てにより夜逃げが相次いでいたそうです。
また、このとき仙台藩の財政も悪化の一途をたどっていました。

吉岡宿では人が減ると活気が失われ、商いも思うようにいかず、年貢はさらに厳しくなるばかりです。
これをみて穀田屋十三郎は茶製造家の菅原屋篤平治と組んで住民の貧困を救いたいと思うようになります。

その方法は、台所事情が悪化していた仙台藩に1000両という大金を貸し付けて、その利息を受け取り、宿場の人々に分配するというものです。

これで、仙台藩のみならず吉岡宿も安泰という、当時としては画期的なアイデアでしたが、商人の利にはなりません。
そこが、穀田屋十三郎の篤志家と呼ばれる所以で、これに賛同した9名により8年にわたり家財を売って小銭を集め、1000両を仙台藩に納めたのです。

篤志家とは、労力や資金を支援する慈善活動のこと。
今でいうチャリティーが近い表現かもしれませんね。

このあたりの話の筋は『無私の日本人』や映画 『殿、利息でござる!』をご覧いただいた方はわかっているでしょう。

 

伊達重村が命名した日本酒

伊達重村(だてしげむら)は仙台藩の第7代目の藩主ですが、宝暦の大飢饉により悪化する藩財政へ対応するため、人事改革、鉄銭鋳造を行った人物です。
しかし、一方で若い伊達重村は薩摩藩主島津重豪への対抗意識から官職を手に入れようと藩の資金を投じたことで仙台藩の財政をさらに悪化させてしまいます。
幕府に願い出た鉄銭鋳造では、仙台産の鉄銭が江戸に流入したことにより銭相場が大幅に下落しました。

このような藩財政の背景から穀田屋十三郎らが立ち上がったわけですが、伊達重村は大そう感心して吉岡宿の商人らに酒名を命名するのです。

それが、寒月、春風、霜夜という日本酒です。

春風と霜夜は現在、吉岡宿にある浅多商店にて販売されています。

 

殿の春風

春風映画 『殿、利息でござる!』で伊達重村公から命名された「春風」をリニューアルして復刻したのがこの「殿の春風」です。

酒造好適米「山田錦」を100パーセント使用し、40パーセントまで磨き上げた大吟醸酒です。
大吟醸酒特有の華やかな吟醸香とスッキリとした口あたりで飲み飽きない食中酒として最適です。

 

銘柄: 殿の春風
使用米: 山田錦(兵庫県産)
精米歩合: 40パーセント
日本酒度: +1
酸度: 1.2
アルコール度数: 14度

浅多商店
〒981-3621 宮城県黒川郡大和町吉岡上町80
電話: 022-345-2222
eメール: info@asata-shouten.co.jp

 

冥加訓

原作や映画でも登場し、浅野屋の家訓として穀田屋十三郎が幼いころより聞かされた『冥加訓(みょうがくん)』という書物があります。
浅野屋では冥加訓を「貝原益軒(かいばらえきけん)先生の御本である」と言い聞かされていたようですが、当時の版元が貝原益軒の名を利用して売ったにすぎす、本当の著者は「関一樂」という備前生まれの無名の学者の著書だったといいます。

浅野屋がなぜ冥加訓を大切にしてきたのかはわかりませんが、備前では「備前心学」といって陽明学の盛んな土地です。
この陽明学とは儒教の一派で、倫理や思想を研究し、多くの教育書を発行する学問です。
貝原益軒は儒学者であり、陽明学に通じていたことから『養生訓』、『大和俗訓』、『和俗童子訓』、『五常訓』などの教育書を発行しています。
このことから、素晴らしい倫理の記された冥加訓を貝原益軒の著書と勘違いしたのではないでしょうか。

 

穀田屋十三郎 家訓

  • ひとつ、わしのしたことを人前で語ってはならぬ。わが家が善行を施したなどと、ゆめゆめ思うな。何事も驕らず、高ぶらず、地道に暮らせ
  • ひとつ、これからも吉岡のために助力を惜しんではならぬ。商売がつづくのは、皆々さまのおかげと思うて、日々人様に手をあわせよ
  • ひとつ、茶を売れ

最後の「茶を売れ」というのが穀田屋十三郎らしいですね。
吉岡宿の発展のため奮闘した穀田屋十三郎、そして彼に賛同した茶製造家の菅原屋篤平治らが立ち上げた新規事業であった茶栽培。
吉岡宿の永続的な発展を家訓とした素晴らしい人物であったことが伺えます。

 

穀田屋の現在

穀田屋は現在、酒を醸していませんが「酒の穀田屋」という酒の卸売業と小売業を専門とする商店として今もなお日本酒にかかわる仕事をされております。
穀田屋十三郎を筆頭に吉岡宿を救った9件の商人のうち、現在でも商いを続けているのは穀田屋だけといいます。

映画 『殿、利息でござる!』のヒットにより9人の篤志家たちの偉業は、この吉岡宿で語り継がれていますが、穀田屋(高平家)では穀田屋十三郎の家訓に従い、十三郎の功績を人前で語らぬよう戒めを守っているそうです。

 

おすすめの日本酒

霜夜いち推しの「特別純米原酒 吉岡宿 霜夜」は、宮城県産の米を60パーセントに磨き、加水せずに出荷する純米原酒です。
純米原酒ならではの辛口で濃い味は酒好きのあなたもうなる一本でしょう。

また、この酒を醸している森民酒造店は宮城県で一番小さい酒蔵と呼ばれています。
鉄分の少ない良質の水が湧き出る井戸から水を汲み上げ、小さい酒蔵ながらも丁寧な酒造りは定評があります。

 

銘柄: 特別純米原酒 吉岡宿 霜夜
特定名称: 特別純米原酒
使用米: 宮城県産米
精米歩合: 60パーセント
日本酒度: -6
酸度: 2.0
アルコール度数: 17%

 

美味しい飲み方

すき焼きすき焼き、サバの味噌煮など、しっかりした味付けの料理がおすすめです。
焼き鳥なら塩よりタレで召し上がるのが良いでしょう。
少し冷やして飲むと酒の味がグッと引き締まります。

森民酒造店
宮城県大崎市岩出山字上川原町15
電話: 0229-72-1010

 

この『殿、利息でござる!』という映画は素晴らしいものでしたが、史実に基づいていることから本当に素晴らしいのは9人の篤志家たちだったと改めて気づかされます。

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