のた坊主をご存知でしょうか。
のた坊主とは、のたのた歩くことから名付けられたというちょっと間抜けでお茶目な狸の妖怪です。
信楽焼きなどで狸といえば酒が連想されるほどですが、愛知県に伝わる「のた坊主」はこれまた日本酒とは切っても切れない言い伝えなのです。
知らない方も多いと思いますのでこのちょっとお茶目な妖怪の話をしてみたいと思います。
愛媛県の伝承にこんなお話があります。
みなさんも狸に化かされたと思ってお聞きください。
のた坊主
昔々あるところに、とても年を取った狸がおりました。
この古狸、なぜかは分かりませんが無類のお酒好き。
毎年毎年、お酒を造っている酒蔵に忍び込んでは、できたばかりのお酒を飲むのが何よりの楽しみでした。
しかも坊主に化けて、酒蔵へ勝手に入り込むということを続けていたのです。
付いたあだ名が「のた坊主」。
のたのたと酔っぱらって歩く様子から、いつしかそんな風に呼ばれるようになりました。
蔵人たちの捕物帳
しかしながら、丹精込めてお酒を造っている酒蔵の蔵人たちにとっては、いつもいつもただ飲みされてはたまったものではありません。
そこで蔵人たちは一計を案じます。
いつもは「のた坊主」が現れると追い払っているのですが、今度現われたら、あえて飲みたいだけ飲ませて酔っ払ったところを捕まえてしまおうということになりました。
そんなことも知らない古狸は、いつものように坊主に化けてのたのたと酒蔵へとやってきましたが、不思議なことに誰も自分のことを気にしません。
蔵人たちは、ただただ忙しく働いています。
少し変だとは思ったものの、目の前には大好物の新酒が。
はやる気持ちを抑えきれずにぐいぐい飲み始めます。
蔵人たちは、それでも誰も何も言いません。
調子に乗った古狸は、できたてのお酒をたらふく飲んでぐでんぐでんに酔っ払ってしまいます。
そんなのた坊主の様子をうかがっていた蔵人たちは、今が好機と皆で飛び掛かって捕まえ、ついに荒縄で縛り上げることに成功します。
酒蔵の繁栄
さあ、これまでの悪行をどうしてくれよう、とすごい形相で取り囲みます。
古狸はもう生きた心地もせず、涙を流して許しを請いますが、誰も耳を貸そうとしません。
そんなところに現われたのが、この酒蔵の主の母親でした。
そして驚いたことに酒蔵の主の母親は「のた坊主」の縄を解くようにと言います。
せっかく捕まえたのにという気持ちもあって皆が渋る中、この母親はさらに皆が驚く提案をします。
のた坊主が酒を盗んで困っているというのなら、むしろこちらから毎年お酒を届けてあげるように、というのです。
皆は唖然としますが、酒蔵の主の母親の言うことを無下にもできず、毎年お酒を届ける約束をしたうえで、のた坊主は解放されることになりました。
こうして九死に一生を得た「のた坊主」は山へ帰って行ったわけですが、その後不思議なことが起こります。
どういうわけか、この酒蔵のお酒が大評判になり、酒蔵はどんどん繁盛するようになったのです。
蔵人たちは、きっと「のた坊主」が恩返しとして何かをしてくれたのだろうとささやき合いました。
のた坊主 まとめ
この伝承では、「のた坊主」は、新酒が出来上がるとどこからともなくやってきて、甕からお酒を勝手に飲み、酔っ払ってはのたのたと去ってゆくだけのあまり害のない妖怪とされています。
狸らしくちょっと間抜けだったり、恩をちゃんと返すストーリーであったり、何とも日本的でほっこりとしてしまうのではないでしょうか。