日本酒の味わいと香りの表現~4つのタイプに分かれる清酒と日本酒度からみる甘口と辛口の違い~

日本酒の品質はその香りと味わいにはっきりと表われます。

日本酒の香りの表現はいろいろに例えられます。

ワインのように花や果物、ナッツといった表現で表わすこともあります。

日本酒は、はっきりとした四季を持つ日本独特の気候風土に育まれ、高い技術を持つ酒造りの達人たちによって生み出される、世界に類を見ない特殊なお酒です。

日本酒の飲用温度には5℃から55℃ぐらいまでかなりの幅があり、冷やしても燗をしても美味しくいただくことができます。

日本酒の香りや味わいには様々な要素が複雑に絡み合っており、その特徴をどのように表現するかということに注目してみると、日本酒の楽しみがさらに広がります。

ラベルデータ数値で見る日本酒の特性

raberuそれぞれのお酒のラベルを見ると、いくつかの数値によってその特性を表示していることに気付かれるでしょう。

一般的には3種類の数値が用いられています。

日本酒度、酸度、甘辛度の3つです。

なんとなく専門的な感じがして、これまでそれらの数値をあまり気にしたことがなかったかもしれません。

しかしその意味が分かると、お酒の味の傾向を飲まずともかなり判断できるようになります。

日本酒度

一般に思われているような日本酒の甘さを単に示すものではなく、日本酒の比重を示す数値です。

お酒に含まれているアルコールとブドウ糖の割合がこれによって数値化され、プラス側になるほどアルコールの割合が高く、逆にマイナス側になるほど糖分が多いということになります。

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酸度

お酒がどれだけ酸性に振れているかを示す数値です。

一般的に、この値が大きくなるほど酸味が強くさっぱりとした味わいになります。

逆に酸度が小さいと中性に近づき、深くコクのある味わいになります。

甘辛度

日本酒度と酸度の2つのパラメータを統合して1つの数値で表したものです。

この値には公式が定められており、

【甘辛度=(193593÷(1443+日本酒度))-1.16×酸度-132.57】

となっています。

その結果、日本酒の味わいは下記の表のように分類されます。

非常に辛い -3
かなり辛い -2
すこし辛い -1
中庸
すこし甘い
かなり甘い
非常に甘い

この表では、辛いとか甘いとかいう表現が用いられていますが、日本酒における辛口または甘口についても認識しておく必要があります。

日本酒の辛口とは、いわゆるドライな味わいであまり甘味を感じないタイプのことを言います。

甘口はその逆で甘味を感じるものということになりますが、日本酒の場合は実際の糖分が発酵の過程で酵母にほぼ消費されてしまっているため、酒粕をあえて多く残したものを除けば、本当に甘いものは少なくなっています。

実際には甘口と表現されているお酒の大半は旨口と表現したほうが良いようです。

アミノ酸等の旨み成分が強く、相対的に辛さをほとんど感じないタイプのものが旨口ということになります。

日本酒の味の表現

mikaku消費者がわかりやすいようにと取り入れられた甘辛度等の数値ですが、実際にはお酒の味わいのごく一部しか表現できていません。

人間の舌は非常に繊細で、さまざまな味わいの微妙な違いを感じ取ることができます。

お酒を口に入れた瞬間から、飲み込んで後味が消えてゆく瞬間までいろいろな味を感じているのです。

そのため、お酒の味を表現するのにも様々な言葉が用いられています。

主に用いられている表現をいくつか見てみましょう。

淡麗

お酒を口に含んだ時に、すっきりとした味わいになっているものを淡麗であると表現します。

濃醇

お酒を口に含んだ時に、濃厚な味わいを感じるものを濃醇であると表現します。

荒い

お酒を口に含んだ時に、味わいが一度に出てきたりアルコールの刺激などを強く感じたりする時に、荒いと表現されます。

一般的にお酒は完成してからしばらく寝かせたほうがまろやかになりますが、熟成が足りない場合に荒さを感じることがあります。

もちろんフレッシュな感じが好きな人にとっては、この荒さは弱点ではありません。

収斂味【しゅうれんみ】

収斂味とは、お酒を口に含んだ時に感じる酸っぱいような渋みのことです。

なんとなく口がきゅっとなるような感じになります。

熟成しきっていない若いお酒に見られることが多く、いわゆる荒い状態のひとつと捉えることができます。

ゴク味

甘味、辛味、酸味、苦味、旨味の5つを五味といいますが、この五味がバランスよく整っている状態のとき、ゴク味があると表現します。

吟味

特に低温熟成をした吟醸酒などのお酒で感じられるもので、吟醸香を伴っていてあっさりとした旨みが感じられる状態のことを言います。

キレ

お酒を飲み込んだ時、その後味がすっと抜けるような感じになることをキレがあると表現します。

コクのあるお酒であっても、後味にはキレを感じることもありますので、コクと対になる言葉ではありません。

押し味

キレと対になる表現で、お酒を飲み込んでしまった後にも余韻が長く続く状態のことを押し味があると表現します。

コシ

押し味のあるお酒で、さらに余韻がぼやけず安定している時にコシがあるとかコシが強いと表現します。

 

このように、微妙な味の違いが様々な言葉で巧みに表現されています。

しかしながら、お酒は舌だけで楽しむものではありません。

香りも重要な要素です。

→日本酒が舌にどのように運ばれるかによって変わる酒の味わいの違いについては日本酒のうま味を最大に引き出す科学的酒器選びで詳しく解説しています。

日本酒の香りの表現

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日本酒の味の表現の時と同じように、香りもどの段階でそれを感じるかによって呼び名が異なります。

お酒を注いだ酒器から立ち上ってくる香りのことを上立香といいます。

これは揮発性の香り成分で、適温にした吟醸酒や、燗をつけたお酒で感じることが多い香りです。

お酒を口に含んだ時、最初に感じる香りを含み香といいます。

飲み込む瞬間に変化する香りを吟香、飲み込んだ後で鼻に抜ける香りを返り香といいます。

酒器を傾けるごとに感じられるこのような香りも、日本酒の醍醐味のひとつです。

酒造りの過程で現れる香りの表現

kyuukakuまた、酒造りの過程で現れる香りを、吟醸香、リンゴ香、新酒ばな、熟成香などと表現することもあります。

吟醸香というのは、吟醸酒や大吟醸酒などに特有の果物のような甘い香りのことです。

過酷な状況下に置かれた酵母菌が作り出す有機酸によるものです。

この香りは揮発性が高いものが多く、その成分を回収して醪に戻すというようなこともかつては行われていました。

リンゴ香は吟醸香の一種で、他にもバナナ香やメロン香などのようにフルーツに例えて表現されます。

新酒ばなというのは新酒に特有の香りで、お酒が熟成すると消えてしまいます。

熟成香とは、お酒が熟成することによって発生する香りのうち、好ましいもののことを言います。

好ましくない老香【ひねか】

kusai01熟成のさせ方が悪く好ましくない香りが発生した場合は老香(ひねか)と呼んで区別しています。

杜氏の間や鑑評会などでは、老香(ひねか)のような好ましくない香りをさらにいろいろに表現します。

もちろん、そのようなお酒を駄目にする香りのものが出回ることはまずありません。

ただ、お店や購入後の保管方法がまずかったり、開栓してから長期間そのままにしておいたりすると、お酒が劣化して悪い香りが発生することもあります。

アルコール臭

好ましくない香りのひとつはアルコール臭です。

これは麹が作り出すアルコールではなく、絞りの前に添加する醸造アルコールから生じる異臭のことです。

普通は生じない香りですが、添加に失敗しているとうまくお酒になじまず、分離したようになり異臭として感じられることになります。

つわり香・酸敗臭・濾過臭

発酵に失敗したときに発生する異臭をつわり香、または酸敗臭と呼びます。

醪を絞る袋の管理状態が悪く、袋自体に異臭が付いてしまっている状態で絞ったため日本酒にもその臭いが移ってしまったものが袋臭です。

濾過の工程で設備や炭などから移る異臭は濾過臭と呼ばれます。

火落ち臭

火落ち臭と呼ばれるものもあります。

これは乳酸菌の一種である火落ち菌が繁殖することによって発生します。

火落ち菌は弱酸性でアルコールのある環境と、コウジカビが生成する有機酸を好みますので、日本酒は火落ち菌にとってまさに絶好の環境です。

それで、貯蔵前に火入れを施して火落ち菌の繁殖を防ぎ、日本酒の品質を維持するのです。

日光臭

最後に取り上げる異臭は、直射日光などにさらされることでお酒が変質して発生する日光臭です。

日光だけでなく、蛍光灯のような人工的な光でもそれに長時間さらされると臭うことがあります。

保管状態の悪さが原因ですので、これまでに挙げた異臭の中では最も接する可能性があるものになります。

このように日本酒は非常にデリケートで、酒造りには繊細な神経が要求されています。

悪い香りを出さず、良い香りをうまく引き出せるかどうかが杜氏の腕の見せ所です。

次に、日本酒の味わいについて考察してみましょう。

甘口、辛口、そして旨口

kenbishiでは本題に入りましょう。

日本酒において、甘口と辛口の違いはどこにあるのでしょうか。

結論から言えば、基準としてのその違いは比重にあります。

原料のお米が発酵してアルコール分が生み出されるわけですが、このアルコール分が多いと比重は軽くなり、辛口ということになります。

ところが、地方の蔵元や杜氏によっては、同じ造り方でも米の養分をたっぷり残したタイプの日本酒があり、これは逆に比重が重く甘口ということになります。

つまり、甘口と辛口の違いは糖分が多いか少ないかということではなく、米の養分がたっぷりと濃く残ったお酒なのか、それともさらっとした日本酒なのかを表現していると捉えたほうがよいでしょう。

日本酒の味わいは様々で、測定した比重値だけで単純に味を決めつけてしまうことができません。

甘くふわっとしたフルーティーな味であるにもかかわらず数値上は辛口という日本酒もありますし、逆に数値上は甘口なのにかなり辛く感じるお酒もあります。

そう考えると、甘口という表現よりも旨口という表現のほうが良いのかもしれません。

日本酒は辛口じゃないと駄目だなどと先入観で決めつけてしまわず、ぜひ自分の舌で判断してみてください。

三倍増醸清酒

jinzo一般的に、日本酒の味わいは甘口あるいは辛口といった表現で表わされることが多いものです。

不思議なことに日本酒を嗜む人の多くは、特にある程度の年齢以上の世代の方は辛口を好む傾向があるようです。

これは、戦後の日本酒を取り巻く状況から考えると無理からぬことかもしれません。

戦後の米不足により日本酒の供給量が著しく減少した結果として、三倍増醸清酒(通称、三増酒)というものが出回るようになりました。

これは日本酒としてはかなり粗悪な代物で、米と水で造られた通常のお酒に、糖分を添加し、さらにアルコールを加え、約3倍に薄めて増量したお酒です。

これが戦後の清酒の主力でした。

その味は、糖類を添加していますから文字通り甘くてしつこく、なんとも切ないものでした。

この三倍増醸清酒のイメージが残っているため、糖の甘さやまずさが排除された辛口のお酒が評価されるようになったというわけです。

現在では、地酒ブームによって日本酒の高級志向が高まったことに加え、2006年の酒税法改正によってアルコール添加量が制限されたことにより、粗悪な酒は姿を消しつつあります。

淡麗辛口ブームから純米酒ブームへ

tanreiさて、そのようなわけで辛口の日本酒が好まれるようになっていったわけですが、この状況に拍車をかけたのが1980年代に吟醸酒の流行と共にやってきた淡麗辛口ブームです。

すっきりとした飲みやすい味わいが人気となり、日本酒と言えば淡麗辛口というイメージがついたほどでした。

それでも最近ではもっとインパクトのある味を求める消費者が増え、生原酒や純米酒といったどっしりした味わいのお酒の人気が高まっています。

日本酒の新たなタイプ別分類法

最近では、様々な日本酒を4つのタイプに分ける新たな分類法が用いられることもあります。

日本酒の初心者にとって悩ましいのは、見た目や名称だけではその味がわからないということです。

大吟醸酒や純米酒という表示があったり、いろいろな数値が記載されていたりしてもよく分からないということが多いものです。

そこで、日本酒の香りの特性を華やかであるか穏やかであるか、また味の特性を濃厚であるかすっきりであるかに分け、この2つの軸を組み合わせて日本酒の性格を表わすことにしたのです。

ではその4つのタイプを順に見ていきますが、おすすめの酒器や料理もあわせてご紹介したいと思います。

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熟酒

熟成されたタイプのお酒で、主に長期熟成酒系や古酒系のものが中心です。

最も濃醇なテイストを持ち、スパイスやドライフルーツのような力強く複雑な香りが特徴です。

とろりとした甘味とよく練れた酸味とが見事に調和しています。

冷しても少し温めても美味しく飲むことができます。

美しい色調を生かすタイプのものがよく似合います。

透明のグラスやカットグラス、また中が金塗りの漆器などもよいでしょう。

熟成酒の持つ本来の風味を楽しむために、その複雑な香りを必要以上に強調しないような形状のものを選ぶと、重厚な味わいをなめらかに感じることができます。

脂の比較的多い料理や、ハチミツやドライフルーツを使用したものなどの濃い甘味を持つ料理によく合います。

和食では鰻の蒲焼、鯉の甘煮、鯉のあら煮、豚の角煮といったところにおすすめです。

中華料理では、鯉のから揚げ、北京ダック、オイスターソースで炒めた牛肉、しゅうまい、甘酢あんかけなどによく合います。

洋食との相性も良く、チーズ、ラムステーキ、ビーフシチュー、鴨のロースト、フォアグラのソテーなどからスパゲッティミートソースやカレーといったものまで網羅します。

それぞれのおすすめの料理については料理で日本酒を選ぶの項を参照してください。

醇酒

コクのあるタイプのお酒で、主に純米酒系の酒が中心です。

最も日本酒らしい米の風味が活きたテイストで、甘味と酸味、心地よい苦味とふくよかな味わいを併せ持ち、樹木や乳性のうま味を感じさせる香りが特徴といえます。

冷でもぬる燗でも美味しくいただけます。

和の酒器をおすすめします。

渋い雰囲気の片口や焼き物はその風情を十分に楽しむことができます。

口の中全体にお酒が行き渡るように、口径より下に膨らみを持った形状のものを選ぶと、ふくよかな香りは一層引き立ち旨味とコクをしっかりと感じることができます。

しっかり味付けされた料理や酒のあてによく合います。

キンキの煮付け、酒盗、とんかつ、筑前煮、鯖の味噌煮、焼き鳥、すき焼き、カレイのから揚げなどの和風の料理にはベストマッチです。

中華では八宝菜、焼き餃子、酢豚、麻婆豆腐といった料理に合います。

バターやクリームを使ったクリームシチューなどの洋風料理にもよく合いますし、鶏のハンバーグ、ビーフステーキ、仔牛のカツ、フライドチキンなどの肉料理にも合わせることができます。

薫酒

香り高いタイプのお酒で、主に大吟醸酒系や吟醸酒系が中心です。

フルーツやお花の香りにも似た華やかで透明感のある香りが最大の特徴です。

甘味と丸みはほどほどで、爽快な酸味とよく調和しています。

このタイプのお酒は冷で飲むのが一番美味しいのですが、ぬる燗でも十分に楽しむことができます。

香りが活きる形状のものが良いでしょう。

ラッパ状に大きく上に広がっているものや、ワイングラスのように中に香りがこもるような形状のものがおすすめです。

華やかな香りが存分に引き出され、繊細な甘味とシャープな酸味を余すところなく堪能できます。

香りが特徴ですので料理を選びますが、淡白な素材を活かし爽やかな風味付けをされた料理とはよく合います。

例えば和風のものでは白身魚の刺身、スズキの塩焼き、山菜のおひたし、山菜のてんぷら、平目のこぶ締め、アナゴの白焼きといったところです。

バンバンジー、カニ爪の揚げ物、八宝菜、春巻、帆立貝とブロッコリーの炒め物といった中華料理にも合わせることができます。

洋風の料理では白身魚のムース、帆立貝のワイン煮、魚介類のグラタン、クリームシチュー、アボガドと海老のサラダなどによく合います。

香りを楽しむという意味で食前酒として活用することもできます。

爽酒

軽快でなめらかなタイプのお酒で、主に生酒系や本醸造酒系が中心です。

日本酒の中では最も軽くシンプルなテイストを持ち、穏やかで控えめな香りが特徴です。

味わいも清涼感が先に立ち、さらりとしています。

冷または冷蔵庫できりりと冷やして飲むのがおすすめです。

お酒が温まらないうちに飲み切れる小さな酒器がおすすめです。

冷で飲むことを考慮して涼しげな装飾を施したものにすると、気分もまた格別です。

形状としては細身でラッパ型に広がる口径をもつタイプのものが良いでしょう。

このような形状の酒器は控えめな香りを的確にとらえつつ、なめらかでみずみずしい味わいを冷えた状態のままで楽しむのに適しています。

お酒自体が強く主張しないため、どんな料理にもよく合います。

特に生の魚介類を使った軽い料理には素晴らしくよく合います。

冷奴、生しらすポン酢、鮎の塩焼き、出汁巻き玉子、茶碗蒸し、タコのから揚げ、生カキ、ふろふき大根、湯豆腐といった和風の料理に合わせるとこたえられません。

海老しゅうまい、春雨サラダ、イカの炒め物、かに玉といった中華にも合いますし、シーフードサラダ、ポテトサラダ、ロールキャベツ、野菜のテリーヌ、マカロニグラタン、プレーンオムレツなどの洋風料理でも楽しめます。

日本酒の味わいと香りの表現~4つのタイプに分かれる清酒と日本酒度からみる甘口と辛口の違い~ まとめ

ここまで、日本酒の味と香りの表現についていくつかの角度から取り上げてみました。

日本酒の香りや味わいには様々な要素が複雑に絡み合っており、たいへん奥の深いお酒といえます。

ぜひ、いろいろなタイプの日本酒を味わってみてください。

美味しい料理と共に、よく合う日本酒をお気に入りの酒器で飲むのは、まさに最高の贅沢といえるでしょう。

最近では、見学ができるように酒蔵を開放している蔵元も増えています。

また、以前使っていた酒蔵を資料館や博物館として改装し、見学できるようにしている酒造メーカーもあります。

酒造りの現場を自分の目で見ると、親しみがわいて日本酒がもっとおいしく感じられるようになるかもしれません。

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