最近の日本酒のほとんどは、金属製のタンクを使用して仕込みを行なっていますが、昔は大きな木製の容器でお酒を仕込んでいました。
いわゆる木桶仕込みです。
木桶仕込みが主流でなくなったのには理由があります。
金属製のタンクと比べて効率的ではないのです。
木製であることから、いろいろなメンテナンスが必要になることや、温度の管理が難しいことなどから、非常に手間のかかる製法ということです。
そのため、戦後の高度成長期の昭和20年から30年代には、木桶に代わってホーローや合成樹脂を使用した金属製のタンクで仕込む方法が主流になりました。
現在では、木桶による仕込みはすっかり珍しくなってしまいました。
桶職人の減少
このような状況の変化に伴って、桶職人の減少も著しくなっています。
伝統の技術を持った桶職人が地元の木材で造った桶は、数十年間酒蔵で使われます。
その後は味噌屋で75年から150年ほどの間使用され、最後に醤油屋へと巡っていくのが木桶の通例でした。
酒蔵では、春になってお酒を出荷し空になった木桶が天日干しされ、秋には桶職人がやってきて竹を削って箍(たが)をきっちり締め直し、こうして手入れがされた木桶は再び冬の寒造りに使用されたのです。
現在ではほとんど見られなくなってしまった光景です。
桶職人も少なくなり、木桶を使って仕込む経験を持つ杜氏も減り続けています。
木桶仕込みの酒に感じる独特の味わい
それでも、木桶で仕込んだお酒には、金属製のタンクで仕込んだお酒にはない独特の味わいがあります。
わずかに残った木のよい香りと品のいい味の濃さを持ち、淡麗ではなく芳醇で、幾重にも感じられる旨味が残る、ふくらみとしっかりとした飲みごたえのあるお酒に仕上がるのです。
加えて、酒米などの原料と桶の合わせ方や仕込み方の微妙な違いによって、さまざまな個性を持ったお酒が生み出されることになります。
毎年その出来は異なり、仕上がってみないとその味が分からないという面白さもあります。
飲み方で表情が変わる木桶仕込みの特徴
木桶仕込みのお酒の特徴のひとつとして、飲む温度によってお酒の表情がずいぶんと変わることが挙げられます。
旨味が十分に乗っているため、冷酒で飲んだ場合でもどことなく温かみを感じることかできます。
しかし、常温から人肌くらいまでのぬる燗になると、木桶仕込み酒の本当の力が明らかになってきます。
旨味とコク、そして甘みが複雑に絡み合った厚みのある味が膨らんでくるのを感じることができます。
あっさりしたお料理だけでなく、こってりしたお料理にもよく合い、お互いがその旨みを引き立て合うのを楽しむことができます。
木桶仕込みの酒を選ぶ
木桶仕込み~木桶職人の減少とともに特徴ある独特の味わいが失われる~まとめ
木桶仕込みのお酒はかなり少なくなったとはいえ、まだ手に入れることができます。
木桶にこだわる酒蔵や杜氏も、多くはないですが気を吐いています。
ぜひ木桶仕込みの、本来日本酒が持っている個性あふれるその味をお楽しみください。
そうすることは、きっと木桶仕込みの文化を守ることにもつながることでしょう。