世界には多くのお酒がありますが、その中でも日本酒はいろいろな温度で飲める希少なお酒です。
特に、日本酒を温めて飲む燗酒は、日本ならではのこだわりの感じられる飲み方です。
燗酒といっても、そのバリエーションはいろいろです。
お酒によって飲むのに適した温度はさまざまで、熱めが美味しいお酒もあれば、ぬるめが美味しいお酒もあります。
また、同じ銘柄のお酒でも毎年味は違います。
そのあたりを見極めて適度な温度までお燗をするのはなかなかに奥が深く、難しいものです。
お燗番の仕事
そのようなことから、お茶屋や料亭などでは「お燗番」という燗付けを専門にする職人のような人が存在していました。
お燗の具合をぴたりと決めるのがお燗番の仕事です。
優れたお燗番は、お酒を飲むお客のことを考慮に入れてお燗をします。
お酒の特徴だけでなくお客の好みも理解するようにし、お客の手元にちょうど良い温度でお酒が届くようにお燗の温度を計算しているのです。
当然、夏と冬ではその温度が違いますし、お客の飲むスピードによってもお燗の具合を調整しなくてはなりません。
燗付けそのものは簡単な作業かもしれませんが、燗酒の魅力を十分に引き出すために、お燗番は毎回真剣に勝負をしているのです。
お燗に向く酒と向かない酒
さて、日本酒にはお燗に向くタイプのお酒と向かないタイプのお酒があります。
香りが際立って高い吟醸酒や搾りたての新酒、熟成していない若いお酒などはお燗をするよりも冷酒として飲むほうがよいでしょう。
燗酒にして魅力がひときわ引き出されるのは、よく熟成した純米酒などです。
冷酒の時には隠れていた香りや旨味が、お燗をすることでふんわりと広がり、長所が浮かび上がってきます。
このように、お燗をすることで風味が増す状態のことを「燗上がり」と言います。
特に伝統的な製法で醸造された山廃、生酛造りのお酒には燗上がりするものが多く見られます。
こうしたお酒は、ぜひ燗酒でお召し上がりください。
最高のお燗のためのひと手間
お燗をすることを燗付けと言いますが、燗付けの際にひと手間かけると、風味がさらに増進します。
お酒の瓶から徳利へと酒を注いだら、その徳利のお酒を錫のちろりへ移します。
錫の器は非常に熱伝導が良く、燗付けが早いという特徴があります。
お燗の具合が、温度だけでなく立ち上がる香りでも判断できるようになったら、かなりの通です。
適温になったら、ちろりの中のお酒をふたたび温めた徳利へと戻します。
このひと手間を加えることで、燗酒の和らぎが増し、十分に風味を楽しむことができます。
面倒だと思われるかもしれませんが、ぜひお試しください。
料理に合わせることでひきたつお燗
燗酒はそのままでも楽しめますが、料理と合わせるとこれまた格別です。
10年以上寝かせた熟成酒のお燗は、メープルシロップや蜂蜜にも似た風味があり、中華や肉をふんだんに使った料理に良く合います。
料理と燗酒を合わせる場合に注意したいのはお燗の温度です。
例えば刺身には、熱々のお燗は合いません。
胸焼けすることもあります。
揚げ物の場合はその逆で、ぬるいお燗だと油が切れず、もたついた後味になります。
揚げ物には、きりっとした味わいが楽しめる50℃くらいの熱燗をおすすめします。
まとめ
燗酒の魅力はその味わいの豊かさと飲み心地の穏やかさ、そして酔いざめの優しさにあります。
日本の文化のひとつとなっているこの燗酒をこれからも楽しんでゆきたいものです。