お酒の神様は世界中に存在しています。
これらの酒神の中でも有名なのはローマ神話に出てくるワインの神「バッカス」ではないでしょうか。
バッカスは、ギリシア神話ではディオニュソスのことです。
そして日本にも、古来より伝わる酒神が存在します。
神道では日本に八百万の神様がいると言われ、その中にはお酒の神様も含まれています。
その中から酒神を祀っている代表的な神社を3つほどご紹介しましょう。
大神神社 ~杉玉の発祥と神の酒~
大神神社(おおみわじんじゃ)は奈良県の桜井市三輪にありますが、ここは日本で最古の神社ではないかと言われています。
大神神社に祀られているのは、日本の二大酒神でもある大物主大神(おおものぬしのおおかみ)と少彦名神(すくなひこなのかみ)です。
この神社では毎年11月14日に、新酒の醸造安全祈願大祭が執り行われており、全国の酒造家や杜氏たちが醸造安全祈願にやって来ることでも知られています。
ちなみに、酒蔵の看板的な存在である「杉玉」ですが、もともとはこの神社の位置する三輪山の神杉の葉を球状に束ねて作られたものでした。
多くの酒蔵では、この三輪山の神杉の葉を毎年持ち帰っては、新酒ができると軒先に杉玉を吊るして目印にしていたということです。
大神神社が日本の酒造りにおいて重要な位置にあったことが分かります。
松尾大社 ~酒造第一祖神の上卯祭と中酉祭~
松尾大社は京都で最も古い神社として知られています。
その建立は西暦701年(大宝元年)で、そのころ京都盆地の西一帯を支配していた秦氏(はたうじ)という有力者により建てられました。
この秦氏には酒造りの専門家が多かったため、室町時代の末期あたりから「酒造第一祖神」として崇められるようになりました。
松尾大社に祀られているのは「大山咋神」(おおやまくいのかみ)という弓矢また戦の神で、下鴨神社や上賀茂神社とともに皇城守護の神としても崇められてきました。
松尾大社では、毎年11月の上卯日には醸造祈願である「上卯祭」(じょううさい)が、4月の中酉日には醸造が無事に終わったことを感謝する「中酉祭」(ちゅうゆうさい)が執り行なわれています。
これらの行事には日本全国から蔵元の関係者や杜氏が多く訪れています。
また、松尾大社の境内には「お酒の資料館」があり、日本各地の蔵元が寄贈した酒造用具や酒器が展示されています。
梅宮神社 ~酒解神と酒解子を祀る日本酒の聖地~
梅宮神社は京都市右京区の桂川の東、四条通りの北に位置しています。
祀られている主神は酒解神(さけとけのかみ)と酒解子(さけとけのみこ)であり、まさに酒神を祀る神社となっています。
もともとは京都府南部の綴喜郡井手町にあった橘氏(たちばなうじ)の氏神であったものが、平安遷都の際に現在の場所へ移設されたといわれています。
梅宮神社では、松尾大社と同様に11月の上卯日に「醸造安全繁栄祈願祭」(上卯祭)を、4月の中酉日に「献酒報告祭」(中酉祭)を執り行なっており、毎年多くの酒造関係者が参拝に訪れています。
この神社の本殿の側には、古くから伝わる「またげ石」と呼ばれる2つの丸い石があります。
これは嵯峨天皇の皇后がこの石に祈願したところ、後の仁明天皇を授かったという言い伝えがあり、この石をまたぐと子宝に恵まれるとされています。
こうしたことから、梅宮神社は子宝と安産の神社としてもよく知られています。
日本のお酒の神様~三輪山の杉玉と酒神を祀る日本酒の聖地~まとめ
以上、酒神を祀っている代表的な神社を3つほどご紹介しましたが、日本では古来から酒造りを神事と深いかかわりのあるものとして捉えていたことがうかがえるのではないでしょうか。
古来の日本では酒造りそのものが神事であり、その工程ごと専用の祠を用意し祝詞を読み上げながら酒造りを執り行っていたといわれています。
神事には必ずといっていいほど「御神酒」(おみき)が用いられていることから、お酒は清らかなもの、また神様へ敬意を示しつつその領域に近付くためのものと捉えられていたことも分かります。
お酒を飲むと気分が良くなり、陽気になったり高揚したりする効果が得られます。
こうしたことから、昔の人々はお酒は神秘的な飲み物だと考えていたようです。
これらの神社を実際に訪れて、古来より日本人が持つお酒に対するそんな想いを感じてみるのはいかがでしょうか。