花切子は、伝統的な切子細工のひとつの技法を用いて仕上げられたものです。
通常はカットした後につやを出すために磨きを行ないますが、花切子の場合はカットした部分をあえて磨かないことで、削った部分がすりガラスのようになり独特の雰囲気を醸し出します。
この表現方法はケシと呼ばれています。
花切子の図柄
花切子には優美で繊細な印象があり、あやめ、梅、菊、紅葉、唐草といった自然のものから、帆船や汽船などの人工物、さらには鳳凰のような伝説に基づいたものまで、いろいろなものをモチーフにして製作されています。
米花と名付けられた模様もありますが、これはアメリカから持ち込まれた舶来品のカットガラスにこの模様があり、それが取り入れられたことに由来しています。
花切子の歴史
花切子のルーツは古く、江戸時代末期にはガラスの上に山水画を描き出す技術があったとされています。
しかしながら、その製法は花切子とはやや異なっていたようです。
花切子は回転盤に上からガラス素地を押し当てる方法で製作されます。
一方で山水画を透きガラスに描き出した作品は、回転盤の下方からガラス素地を押し当ててカットを施すもので、グラヴィールと呼ばれる技法によく似ています。
一部には両者が混ざったような作品もあります。
古い記録によれば、明治14年の博覧会において品川工作分局による出品の中に何点か花切子があったようです。
といっても、それらは器ではなくランプや街灯の火屋でした。
現在のように小物や器に花切子が施されるようになったのは、回し吹きと呼ばれるガラス製造の技術が一般的になってからのことです。
技術革新による発展
それまでガラスと言えば比較的不純物の多いものが用いられていたため、気泡なども入ってしまい花切子のような細工にはあまり向いていませんでした。
しかし、ガラスの型吹きをする際に息を吹き込みながらくるくると吹き竿を回すことによってガラスの肌を整えることができるようになると、状況は一変します。
ガラスはきれいな状態で形になり、その素地に花切子を施した作品はとても素晴らしい出来栄えになったのです。
一躍、花切子は高級品として人気が出て、多くの職人たちが製作するようになりました。
花切子はカットした後に研磨をする必要がないため、短い時間で沢山製作できて割のいい仕事だと考えられていたこともあったようです。
現在の花切子は、人工砥石を使用して製作されますが、比較的単純な線と面の構成でありながら、さまざまなモチーフが見事に表現されています。
伝統的な模様から現代的な意匠に至るまで数多くの作品が製作されており、花切子を専門とする工場もあるほどになっています。
江戸切子やグラヴィール加工との違い
この花切子は回転盤に上からガラス素地を押し当てて製作しますが、これと似ているのがグラヴィールと呼ばれる技法です。
最大の違いは回転盤の下からガラス素地を押し当てることで、作業中は研磨用の回転盤の影に器が隠れてしまい視認できないため、技術的には非常に難しい技法です。
そのため、ヨーロッパではグラヴィール工といえばガラス職人の中でも相当の腕前を持っているという立ち位置になります。
出来上がる作品には優美で繊細なものが多く、立体的な彫刻が施されています。
細かな薔薇の花や、植物の葉の葉脈までが表現されているものもあり、現在でも人気がある製品となっています。
このグラヴィール技法を日本に伝えたのがイギリス人技師のエヌマエル・ホープトマンでした。
ホープトマンの教えを受けた多くの伝習生はその後、江戸切子をはじめ、現代日本のガラス工芸において多大な貢献をしています。
エヌマエル・ホープトマンについては「江戸切子の歴史とその特徴を生み出した人物たち」の記事を参照してください。
サンドブラストとの違い
さて、花切子と似たような仕上がりになる製法としては、サンドブラストを上げることができます。
これは、細かい砂をコンプレッサーによって高速でガラス素地に吹き付け、その摩擦で彫刻を施す技術です。
現在ではコンピューターで制御された機械により、立体的で相当複雑な彫刻が施された製品が大量に生産できるようになっています。
それで、サンドブラストによる作品と、切子の技法を用いた作品は似て非なるものです。
良心的なメーカーはこの両者をきちんと区別しています。
まとめ
腕の良い職人が手作業で製作した花切子には、独特の味わいがあります。
ぜひ本物の花切子を手に取って、じっくりと眺めてみてください。