薩摩切子の精緻で美しい作品が、実は伝統的工芸品として認定されていない、というと驚かれると思います。
これがいったいどういうことなのか説明してみたいと思います。
そもそも「伝統的工芸品」というのは法律上の用語で、昭和49年に施行された「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づいて経済産業大臣が指定するもののことなのです。
伝統的工芸品
「伝統的工芸品」の認定には要件がいくつか定められています。
まずは日常生活に一般的に用いられるもので主として手作業で製作されるものであることが必要です。
さらには伝統的であること、つまり約100年以上の期間にわたって継続的に用いられてきた技術と原材料によって製造されていることも必要です。
また、一定の地域で産業として成立していなくてはなりません。
要件を満たしていない薩摩切子
では、この要件を薩摩切子は満たしているでしょうか。
薩摩切子の歴史をたどるとわかりますが、江戸時代に始まった薩摩切子が製作されていた期間は20年余りであり、その後産業としては完全に途絶えてしまっていますので、100年以上の期間にわたって継続的にという条件には適合しないのです。
また、薩摩切子は薩摩の地域産業ではなく色被せやカットの技法のことを指しており、これも要件を満たしません。
このような理由で、薩摩切子は法律上の伝統的工芸品ではないのです。
実際、「経済産業大臣指定伝統的工芸品」のリストには、江戸切子は載せられていますが薩摩切子は載せられていません。
それでも薩摩切子は伝統工芸?
それでも、薩摩切子は伝統工芸品であると言えるでしょう。
「伝統工芸品」というのは古くから用いられている一般的な呼称です。
伝統工芸品には織物や染物といったものから陶磁器や漆器、さらには仏壇仏具まで多種多様な種類のものが含まれています。
それぞれの地方自治体などが工芸品として認定するものがこれにあたります。
現在では薩摩切子は鹿児島県の伝統工芸品指定を受けています。
消費者にわかりやすく表示されている伝統的工芸品
まとめますと、法律に基づいて経済産業大臣が指定し、一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会が認証している工芸品が「伝統的工芸品」です。
その一方で「伝統工芸品」にはいろいろな作品が実際には含まれ、さまざまな自治体や団体により認証されたものであり、厳密には違いがあるということです。
それぞれ認証がなされていることをいろいろな方法でアピールしていますが、一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会の認証する「伝統的工芸品」の場合は、「伝統マーク」や「伝統証紙」といったものを表示することでその品質を保証しています。
消費者にとっては比較的わかりやすい仕組みになっているともいえます。
薩摩切子は「伝統的工芸品」ではありませんが、鹿児島県の伝統工芸品指定を受けた工芸品です。
しかしながら実際のところは薩摩での生産が途絶えた後、大阪のカメイガラスなどの職人たちが多大の苦労をして復刻したものです。
そのため、薩摩切子の伝統的な技術に熟練した職人の多くは今も大阪で製作を続けており、薩摩切子の本場は実は鹿児島にではなく、大阪にあるということになります。
まとめ
法律上、認められていなくても伝統工芸といってしまう。
どれが本当の伝統工芸なのかわからなくなりますね。
消費者にとってはわかりやすい伝統マークですが、伝統的工芸品の規定そのものを見直す必要があるのかもしれませんね。