本利き猪口とは、酒蔵や品評会などで本格的な利き酒をする時に用いられる酒器のことをいいます。
一般の方が使う利き猪口は「呑み利き」といい、り大きめの一合サイズという以外は市販のものと変わりません。
本利き猪口は薄く繊細で、透明の釉薬の上に職人が手作業で丁寧に蛇の目を描く、上絵付けという手法で装飾が施されています。
「呑み利き」と「本利き」はまったくの別物ということがおわかりになるかと思います。
本利き猪口のサイズは基本的に1合のものしかありません。
毎年、春になると全国新酒鑑評会が開催されます。
この鑑評会は明治44年以来、毎年開催されていますが、当初は東京にあった国税庁醸造試験場や国税庁醸造研究所といったところが主催していました。
現在は広島県東広島市にある財務省所管の独立行政法人、酒類研究所が主催して行なわれています。
お酒の鑑評会やコンテストは全国各地にたくさんありますが、この全国新酒鑑評会が最も正式なものとして認知されています。
そのようなことから、全国新酒鑑評会で使用される本利き猪口がいわば公式の酒器と言えます。
全国新酒鑑評会に正式採用
平成25年度の全国新酒鑑評会においては、酒類研究所により「幸泉」の本利き猪口が採用されました。
選定理由としては、日本酒のきき酒に最適な形状であることと、安全な素材を使用して造られていることです。
特に、幸泉では使用する絵の具に鉛の含まれていないものを選定して使用しています。
鉛が有毒であることはすでに世界の常識であり、こうしたことに配慮した器であるということは非常に重要です。
全国新酒鑑評会において使用される幸泉の本利き猪口の側面には青い文字で「酒類総合研究所」と記されています。
この表記は同じ幸泉のものでも市販されている本利き猪口にはなく、鑑評会専用に特別に造られているものです。
持ち上げて底面をのぞくと、幸泉作と楷書で書かれていることがわかります。
さて、この全国新酒鑑評会において優秀な成績を取ったお酒は、「公開きき酒会」という催しにおいて一般公開されます。
この公開きき酒会の会場には入賞酒だけが展示されています。
北は北海道から南は沖縄まで県ごとに入賞酒が並ぶ様子は壮観です。
きき酒会ですから、参加者はそれらのお酒すべてをきき酒できるようになっています。
それらの入賞酒の前には、酒類総合研究所の文字が記された幸泉の利き酒猪口が置いてあり、実際に手に取って見ることができます。
もっとも、現在は衛生上の観点からそのまま口飲みすることはできません。
参加者がそれぞれ自分の手に持っている猪口にお酒をスポイトで移して利き酒をすることになっています。
本利き猪口はいろいろな窯元で製作されていますが、幸泉窯の本利き猪口で一杯飲めば、全国新酒鑑評会の鑑評員になった気分が味わえるかもしれません。