根本硝子工芸-根本達也~江戸切子の歴史と未来を考え古典から近代デザインまでこだわりの作品を生む名工~

関東が誇る職人の町、東京都江東区。

00206ここは、日本で屈指の技術を用いて作られる硝子工芸で知られる江戸切子発祥の地、そして現在でもその技術と精神は受け継がれ、この地には数多くの江戸切子職人たちの工房があちらこちらに見受けられます。

この江東区では、以前から江戸切子の他にも日本が誇る数々の工芸品や鉄工などの技術製品が多く作られていましたが、近年では東京タワーに代わるスカイツリーなる新たな電波塔が作られたことで江東区の伝統工芸が一躍注目を浴びることとなりました。

スカイツリー周辺では、江東区自慢の工芸品などを販売する商店が立ち並び、江戸切子に於いて江東区内の亀戸梅屋敷内には、「江戸切子協同組合ショールーム」が設置され、こちらでも江戸切子職人たちのすばらしい作品を鑑賞し、購入することができます。

しかしながら、販売店で購入できる商品は、江戸切子協同組合や大手仲買業者からの商品で、意外にもその種類が少ないと感じたのは私だけでしょうか。

江戸切子協同組合については、後日あらためて記事にさせていただくとして、そんな江戸切子の町、東京都江東区亀戸にある根本硝子工芸に見学に行かせてもらいましたのでご紹介したいと思います。

根本硝子工芸

実り紋八角大皿_根本幸雄ここ亀戸に工房を構える根本硝子工芸は、江戸切子の伝統を脈々と受け継いできました。

江戸切子の歴史に燦然と輝く作品を残し、多くの職人たちが目標にした故・根本幸雄氏により昭和34年に「根本硝子工房」という名で工房が設立されました。

根本幸雄氏による作品は、数々の作品展にて受賞し、東京都知事より伝統工芸士の称号を授与、その後「根本硝子工芸」と工房名を改め、職人の育成や技術の発展に力を注ぎます。

(写真)「実り紋八角大皿」 根本幸雄作 江戸切子協同組合ウェブサイトより

根本幸雄氏は、江戸切子はもちろん、薩摩切子にも多大な貢献をした一人です。

薩摩切子は、「薩摩切子の歴史」でも紹介したように二十年余りという短い期間のみ生産された硝子工芸品で「幻の切子」と呼ばれていました。

後に薩摩切子は、切子技術、そして薩摩切子に必要な色被せ生地の技術が卓越していた大阪にて復刻されることになりましたが、その数年後にもうひとつの薩摩切子の本場、鹿児島県で復刻する際、実は根本幸雄氏が鹿児島へ出向いて江戸切子の技法を教えたというのです。

作品のみならず、江戸や薩摩の職人の育成、技術や市場の発展に大いに貢献されてきた根本幸雄氏だからこそ、天皇陛下より黄綬褒章を受章できたのではないでしょうか。

n002根本硝子工芸は、現在も根本幸雄氏のお弟子さんであり、実の息子さんでもある根本達也氏により父・幸雄氏の技術と精神を受け継いでおられます。

私たちは、根本硝子工芸におじゃまし、江戸切子職人・根本達也氏の工房を見学させていただき、お話を伺いました。

工房内のショールームにて私たちの目に留まった切子があり、達也氏にお尋ねしたところ、父・幸雄氏の晩年の作品であると伺いました。

この作品は、薩摩切子とも捉えることのできるような厚い色被せ生地に大胆にも繊細な切子を施したもので、ここでも鹿児島の薩摩切子の歴史を垣間見れたような気がします。

(写真)工房内ショールームにて根本達也さんと江戸切子

 

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(写真)整頓された道具

 

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(写真)作業をするご子息

 

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(写真)根本達也氏による作品

 

江戸切子-根本達也(日本工芸会正会員)

img_eng0102_04根本達也さんは、若いころから父・幸雄氏の作る切子に馴染み、二十歳の頃には根本硝子工芸で働き始めたといいます。

父・幸雄氏に師事した達也さんは、幸雄氏の技術だけでなく精神をも受け継いでか、江戸切子界で頭角を現し、数々の作品展で受賞しました。

私たちも根本達也氏の江戸切子とその技術への熱い想いをお伺いし、大変勉強になりました。

特筆すべき点としては、仕上げ作業へのこだわりです。

近年の切子は、江戸、薩摩ともに製作工程を省いて少しでも皆様に作品を安価でお届けできるように「酸磨き」と呼ばれる薬品を用いた仕上げをしている工房も少なくありません。

しかし、根本達也氏は研磨機での手作業による「手磨き」という工法に大変こだわっておられ、達也氏のご子息にもこの「手磨き」を伝授しているとおっしゃっておられました。

私たちも「酸磨き」の作品を目にしますが、「手磨き」による手間隙かけた作品は「酸磨き」とはまったく違うエッジの効いた輝きを放ちます。

しかも、「酸磨き」をする工房が増えたことから「手磨き」の仕上げ工法ができる職人が少なくなっているといいます。

「酸磨き」が悪い工法だとはいいませんが、こういった古くから受け継いできた伝統工法を大切にするからこそ、今も昔も根本硝子工芸の江戸切子は輝きを失わないのではないでしょうか。

そして、これからも根本硝子工芸で作られた作品は輝き続けるのです。

根本様、お忙しいところ、お邪魔したにもかかわらず、ご教示いただきましてありがとうございました。

この場をお借りして御礼申し上げます。

 

根本達也~略歴~

1963年 東京都江東区に生まれる
1983年 有限会社根本硝子工芸 入社
1983年 日本伝統工芸 武蔵野展 入選
1985年 日本伝統工芸 第七部会展 入選
1985年 日本伝統工芸 新作展 入選
1986年 日本伝統工芸展 入選
1989年 日本伝統工芸 選抜展 選定
1989年 旭硝子株式会社主催 東京ガラスアート展 入選
2004年 江東区優秀技能者 認定
2007年 経済産業大臣指定 伝統工芸士 認定
2008年 第8回伝統工芸士会 作品コンクール 関東伝統工芸士会長賞 受賞
2009年 第12回日本伝統工芸士会 作品展 財団法人伝統的工芸品産業振興協会会長賞 受賞
2009年 日本伝統工芸士会 秀作展 選抜出品
2009年 ポーラ美術館「輝きのガラス展」 選抜展示
2011年 町田市立博物館 「日本のカットガラスの美と伝統」 作品展示
2011年 瀬戸市美術館 作品展示
2012年 日本ボタン大賞 優秀賞 受賞

 

根本幸雄~略歴~

昭和34年 根本硝子工房 設立
昭和55年 伝統工芸新作展 入選(以後入選多数)
昭和55年 日本伝統工芸展 入選(以後入選多数)
昭和58年 伝統工芸部会展 山梨県立美術館 展示(以後毎回)
昭和62年 伝統工芸新作展 日本工芸会東京支部賞 受賞
昭和63年 コーニング美術館 「New Glass Review 9」 選定
昭和63年 東京都知事より伝統工芸士授与
平成元年 江戸切子新作展 最優秀区長賞 受賞
平成元年 伝統工芸七部会展 文化庁長官賞 受賞
平成3年 伝統工芸七部会展 日本工芸会賞 受賞
平成3年 江戸切子新作展 優良賞・特別デザイン賞 受賞
平成8年 江戸切子新作展 東京都労働経済局長賞 受賞
平成8年 東京都伝統工芸士その人と作品展 東京都知事賞 受賞
平成10年 伝統工芸七部会展 文化庁長官賞 受賞
平成13年 江戸切子新作展 中小企業理事長賞 受賞
平成15年 江戸切子新作展 江東区長賞 受賞
平成15年 東京都優秀技能章 東京マイスター知事賞 受賞
平成16年 江戸切子新作展 東京都労働経済局長賞 受賞
平成18年 現代の名工 卓越技能章 厚生労働大臣賞 受賞
平成19年 江戸切子新作展 東京都知事賞 受賞
平成21年 江戸切子親善大使 坂崎幸之助賞 受賞
平成21年 黄綬褒章 受章

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